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■解説/淀川長治
フランスのアルベール・ラモリス (1970年死亡、48才)の1960年作。初めて
のラモリスのカラー長篇である。前作の「赤い風船」から4年目、ラモリスの
空への夢はここに花とひらいたのであった。ラモリス監督の1970年の死は
病死ではない。新作をとるためイランのテヘラン郊外の空中撮影中にヘリ
コプターが電線に触れての事故死。「恋人たちの風」という映画。ラモリス
監督は空にとりつかれた監督。この「素晴らしい風船旅行」のあと4年目
に作った「フィフィ大空へ行く」も空の映画。そして空の映画といってもその
意味は伝わるまいが空から地上をみつめる映画、さらに自由自在に流れ
たり上昇したり下降したり、ななめにとんだり、その空の(リズム)その空の
(流れ)その空の(自由さ)そしてその空から地上を見おろす美しさ、それも
流れるバルーンから見おろすその地上の流動感。「フィフィ大空を行く」は
時計泥棒がサーカスのつな渡りとなったとき彼はなんと背に大きな翼がで
きて自由に空へとびたった。そのにわか天使が空から地上に舞い下りた
り、またサーッと地上から空へ舞いあがったり、とにかく映画によってこそ描
き得るこの流動感このトリックはそれはもはやトリックとかんたんには申せぬ
映画芸術の世界。この「フィフィ大空へ行く」のあと3年こんどもまた「パリ
の空の詩」(1967年)という空からパリの見物を短篇に作っている。いうな
らば「赤い風船」がラモリスに空の詩を教えてこれが「素晴らしい風船旅
行」で花とひらきこのあとの「フィフィ大空へ行く」「パリの空の詩」はすべて
「素晴らしい風船旅行」のノスタルジィであり大人版とでもいえる映画詩で
ある。
アメリカは連続大活劇やドタバタ喜劇をもって活動写真の第一歩を踏みイ
タリアは文芸ものや歴史劇をもって活動写真の第一歩を踏みだしたのだ
がフランスはトリックからスタートした。フランスがそのころ見せたドタバタ喜
劇にはすべてトリック撮影が用いられそれが人気を呼んだ。このトリックこ
そは映画以外には見せ得ぬ活動写真のお楽しみでもあった。ラモリス監督
はパリ生れで中学校を出るとただちに映画研究所にはいって、やがて記
録映画をとるようになった。そしてやがて短篇映画「ロバと少年」をとり、こ
のあと「白い馬」でこんどは少年と馬の愛を描いたのだが、記録映画作家
からスタートしたラモリスは地方の風景美を映画の中に吸いこませ
「白い馬」もフランス南部の田舎というよりもひとざと離れた海に面した原始的な
そのカマルグの風景を映画の中に吸いこませたかったにちがいない。とこ
ろが馬と少年の愛のストーリーがそのラスト・シーンにいたって幻想的な童
話のファンタジィを香らせ、ラモリスは映画でもっとファンタジィを見せたく
なって「赤い風船」に風船が人間のようにフワフワと主人のあとをついて
ゆくそのトリック撮影に夢中になり同時に少年(童心)を描く面白さにも夢
中になった。このラモリスが少年と空に魂を奪われたのもやっぱりフランス
の活動写真の魂を持っていたゆえであろう。
老人の科学者が大きな気球で空の散歩をしようとする。かくてバルーンが
地上から浮き上ったとき、ひそかに気球の籠の外にかくれぶらさがってい
た孫の少年(パスカル・ラモリス)を見つけびっくりしたがもはや一緒にゆく
より仕方がない、老人の助手は自動車で地上からこのバルーンを追いな
がら見守る。やがてバルーンは北フランスからパリへと流れてゆくのだが
パリのエッフェル塔や凱施門を目の下に見る。いや目の下に見るだけで
なくバルーンの流れ動くそのことからエッフェル塔も凱施門もが少年の目
には生きているよう動き、廻り、遠くへ、去ってゆく。あるタテモノの頂上で
大工が仕事をしている。バルーンがその男に近かづく。映画の画面はタテ
モノが上にあがってきて大工がはっきりと顔まで見える近さになり、老人が
“おい、パリは遠いかね”ときくと大工は片手にもった木材で左の方を指し
てこの方向からゆくといいと教えてくれる。少年と老人の“ありがとう”の声
でバルーンはそこから去ってゆくのだが、たちまちタテモノのテッペンで手
を振っている大工が下へ下へ右へ右へと小さくなってゆく。雲のあいだか
ら海が見え白鳥のむれが美しい。バルーンは下へ下へと降りる。キャメラ
もバルーンからとっている。だから白い雲が近づき雲が画面から切れてさ
らに下の海へ近づくとそれは白鳥でなくたくさんの白いヨット。バルーンが
もっと下へ降りてヨットのまわりを廻る。すると青い海のそこに浮かぶヨット
がバルーンに向って手を振る人たちを見せながら一回転する。それはバ
ルーンがヨットのまわりを回転したからである。まさに映画詩の連続だ。鹿
狩りに追われた鹿が必死に走る。まじかに追手が迫る。鹿が二つに別れ
た道をどちらににげようかとしたとき、少年はバルーンから身をのりだして、
「あちらにお逃げ!」と叫んだ。鹿はその方向へ走る。これはなんとも見事
にすばらしいシーンであった。
その浮遊感覚において、おそらく世界でもっとも秀でていようA・ラモリスの、「白い馬」や「赤い風船」といった短編を経て作られた、初の長編劇映画。大空を自由に散策できる気球を開発した老科学者(A・ジル)がパリを出発。空飛びたさに同乗してきた孫(P・ラモリス)と老人を乗せて空高く舞い上がる気球。地上では装備を自動車に積んだ助手(M・バケ)が伴走し、いよいよ冒険旅行が始まった。ラモリス自身が空中撮影用に開発した“ヘリヴィジョン”によって描かれる空の旅は、何とも言えないのどかさと美しさに満ち溢れている。アルプスなどの自然の景観も圧倒的に素晴らしいが、何でもない市井の風情や、野を駆ける鹿の雄大さ、風の舞うまま踊り続ける洗濯物の描写など、“天使の視点”から見たような数々の映像はまさに幻想的。この監督がどんなささやかな物でさえも“ファンタジー”にしてしまえる事を物語っている。ジャン・プロドロミデスの緩やかな、そして甘美なメロディに乗せて展開される1時間半。観ている間、こんなに幸せな気分になれる映画はざらにはない。
ヒンデンブルク号
ユーザー名:Aso, S.
投稿日:2019-09-19 13:47:41
のようなエポック・メイキングな大炎上を起こした水素型飛行船とは違った牧歌で子供には堪らない映画だろうな。
気楽に見て楽しむ作品
ユーザー名:Ikeda
投稿日:2011-10-10 11:34:10
パスカル(パスカル・ラモリス)が祖父(アンドレ・ジル)の考案した風船に乗ってフランス上空を飛び回る映画ですが、フランス各地の風景が良く写されているのが見所ですが、それ以上の作品ではないと思います。それでも撮影の殆どはヘリコプタによるものでしょうが、本当に風船に乗っているような気分になるのが良い所です。
北フランスのべチュヌを出発してストラスブール大聖堂を見てパリ上空に飛び、シュノンソーの館を見てブカレストの沖合を通ったりしている内に山火事に遭って風船が爆発してしまう。それでも予備の風船を使ってモンブランを越えコートダジュールで朝を迎えると言った具合です。
ストーリー性は殆どありませんが、気楽に見て楽しむ作品だと思います。
空を飛ぶことの素晴らしさ!
ユーザー名:ロビーJ
投稿日:2007-10-15 00:32:11
私が特に尊敬している映画評論家の双葉十三郎先生が雑誌でこの年の1位に挙げていた作品だったので、中古ビデオを買って鑑賞しました。いやぁ〜やっぱり良かったです!気球で空を飛ぶというのは、ゆったりとしていて素敵ですね。もう改めて空を飛ぶことの素晴らしさを教えてくれました。
気球から見る景色の美しさといったら半端じゃなく、見ている自分まで一緒に旅をしているかのような心地よい幸せな気分になれました。どのシーンも素敵だったけれど、解説にもある普通の市井の風景や野をかける鹿の姿などは本当に素晴らしかったです。特に鹿の走る姿をあそこまでずっと見せてくれるというのはなかなかないので嬉しかったです。
気球が何度か地上に下りるときの様子も面白かったし、気球に飛び乗り、最後までずっと乗っていた少年の可愛らしさも忘れられません!ラストは何ともいえない切なさもあって印象的でした。
とにかく気軽にゆっくりと楽しむ事の出来る素敵な映画です。
リズム
ユーザー名:Sekino☆そら
投稿日:2005-12-07 01:39:17
【ネタバレ注意】
旅には速度がある。リズムといってもいい。同じ景色でも飛行機や電車、自動車から眺めるそれと、時速10キロ程度の自転車や歩きながら見渡すそれとは瞳に映る世界や情緒に響くものがちょっとちがいます。”見る”という動きから”見つめる”という目を凝らした視線にがらりと風景が変わる★
彼らの乗った気球もまたのんびり穏やかな速度を保ち、ふわふわと揺りかごのように大空を翔る。ブルゴーニュやプロバンス地方の芳醇な田園風景。幸せに笑顔咲く丘の上の結婚式。野鹿や水牛や羊の群れなど大地に広がる動き。野焼きに種まき自然と共に暮らす人々。それぞれに刻まれた穏やかなリズムに合わせたようにまるで夢の時空を風船がたゆたうようです☆
ラストはひょんなことから孫のパスカルがひとり気球に乗って飛び立ってしまいます。博士やジル、レスキュー部隊まで総動員で気球を追いかけるのですが、パスカル本人は至って冷静、操作も手馴れたもので、大空を独り占めしたトムソーヤのよう。
しかし、この夢のような冒険旅行にも儚い一瞬が訪れます。気球は長旅に息絶え、マリンブルーに輝く砂浜にパスカルは不時着。気球はやがてこの海を離れ空高く舞い上がり消えて行ってしまいました。。。
まるで御伽話のような最期なんですが、ボクはこのパスカル少年。実は博士の子供の頃の姿なんじゃないかと思いました。彼は少年の頃の夢と希望をパスカルに映し出していたような気がするのです。これ以上は詮索しても野暮というものなのでしませんが・・(^^;
とにかく素晴らしいシネマだと思います☆★
Sekino☆そら
(無題)
ユーザー名:さち
投稿日:2005-06-22 18:44:23
名作
なぜか心に残る映画
ユーザー名:TAZ
投稿日:2003-01-22 00:01:56
30年前に中学校の映画観賞会で寒い体育館の中で見ました。中学生には退屈な映画で約400名の生徒が途中から大ブーイングしたのを覚えています。確かにストーリーらしきものが無く、同じ単調なテーマ曲にのって風船旅行をひたすら続けているだけなので、当時の私にも決して面白い映画ではありませんでした。しかし、30年たった今、なぜか映画の中の美しい風景とあの単調なメロディーが頭の中をぐるぐる回ることがたまにあります。もう一度見てみたい不思議な映画ですね。