そのリリースに当たっては、あの伝説的なLPボックスのパッケージをリスペクトした形のデザインでボックスを制作。そのパッケージだけでもマニアをニヤリとさせてしまうこと請け合い。また放送をエアチェックしたリール・テープではありますが、経年によってピッチが正確な場合と番組の途中でピッチが変わるといった問題が散見されました。それに加えて原盤の時点からピッチが高い箇所などもある。例を挙げればDisc-6のエピソード「栄光のビートルズ」において「Help!」が生み出されたエピソードを語るポールの声の甲高さ。あるいはDisc-3の「ビートルズ、ヒットパレードを荒らしまわり海外へ進出」で流された「Love Me Do」のように、日本放送時、あるいは録音時にピッチが上がってしまった場合もありました。そこでこうした箇所をピンポイントでアジャスト。
また番組の内容全体が非常に面白いのが流石のBBC制作。この時点で入手できたインタビュー、さらには番組の為に取材を受けた関係者の証言などによって、今なお驚かされるエピソードがいくつも登場します。例えばDisc-2の「レコード・デビュー」においてビートルズが初めてスーツを着てキャバーン・クラブに上がった夜のこと。あるいはDisc-8の「ビートルズ幻想の世界」において、昨年リリース50周年ということで話題を呼んだ「SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND」にまつわる面白いエピソードが続出。ポールの「When I’m Sixty-four」がデビュー前からの曲で、アンプが壊れた時に好んで演奏していたという有名なエピソードをジョンが証言してみせる。それでいてアルバムを彼が「その時はゴキゲンなアイディアだと思ったけど、今聞いてみるとどうってことないんだね」と言った具合に作者自分で一刀両断してしまうのだから爆笑。つまり現在の「BEATLES ANTHOLOGY」でも聞かれない逸話が随所に登場する。
ところがビートルズの活動末期が近づいてくると、まだ解散からそれほど時期が立っていない生々しさがあったからか、グループ間の不和に関しては描写が曖昧になっていきます。現在では常識となっているようないきさつなどが意外なほど登場しないし、Disc-10「ハロー・グッバイからカム・トゥゲザーまで」などではゲット・バック・セッションで起きた問題などがほとんど触れられません。この辺りは致し方ないことかと。そして驚かされるのは、番組内で公開されたレア音源がことごとく当時音盤化されていたということではないでしょうか。まずDisc-1「リバプール・サウンドの誕生」において抜粋が紹介されたBBCライブ音源「Lucille」と「I Forgot To Remember To Forget」はどちらも不完全な状態だったにもかかわらず、70年代を通してさまざまなアイテムに転用されていたものです。もちろんこれら二曲のピッチもアジャスト。
意外なところではDisc-12「四人のソロ活動」でジョンがポールの「Too Many People」の歌詞を口ずさむところもここが出所であり、「NOW HEAR THIS SONG OF MINE: RAM OUTTAKES」の最後に収録されたのも記憶に新しい。そして本プログラムの中に唯一フィーチャーされたライブ音源である1963年のスウェーデン公演。その中でもDisc-3で聞かれる「You've Really Got A Hold On Me」は途中からスタジオテイクに切り替わるという不思議な編集がほどこされているのです。これもまた「SPICY BEATLE SONGS」など多くのLPに収録された有名編集バージョン。その大本がまさかのBBC放送の中にあったとは。
そのことからも解るように、本番組における最大の弱点はライブ音源が皆無に等しいということでしょう。1964年以降の人気が爆発した時期のライブ音源をBBCが所有していなかったということも考えらえます。それがイギリスやアメリカであればストーリーとインタビューで構成できる訳ですが、当時の日本でこれはちょっと厳しい。そこで日本放送時には独自にライブ音源が付け加えられていた事が今回判明しました。それはDisc-5「ビートルズ世界制覇」において。ここで「エド・サリヴァン・ショーの模様です」と紹介されて「Twist And Shout」のライブ・バージョンが流されるのですが、これが何と65年のシェア・スタジアムの演奏。ここでも確かにサリヴァンの紹介から始まるのですが、実は全然違うライブだったという(笑)。日本放送時の制作者のビートルズに対する知識など、この程度のものだったのでしょう。おまけに当時売られていたタイトル(「LAST LIVE SHOW」辺りか?)を流用したと思われる音質。かなり残念な結果となってしまったのですが、あまりのライブ音源の少なさに業を煮やして独自に付け加えたという判断自体は悪くないですよね。